激しい恋
2006/09/27 (Wed) 08:35
打延而 思之小野者 不遠
其里人之 標結等 聞手師日従 立良久乃
田付毛不知 居久乃 於久鴨不知 親之
己之家尚乎 草枕 客宿之如久 思空
不安物乎 嗟空 過之不得物乎 天雲之
行莫々 蘆垣乃 思乱而 乱麻乃
麻笥乎無登 吾戀流 千重乃一重母 人不令知
本名也戀牟 氣之緒尓為而
うちはへて 思ひし小野は 遠からぬ
その里人の 標結ふと 聞きてし日より 立てらくの
たづきも知らず 居らくの 奥処も知らず にきびにし
我が家すらを 草枕 旅寝のごとく 思ふそら
苦しきものを 嘆くそら 過ぐしえぬものを 天雲の
ゆくらゆくらに 葦垣の 思ひ乱れて 乱れ麻の
をけをなみと 我が恋ふる 千重の一重も 人知れず
もとなや恋ひむ 息の緒にして
反し歌 13-3273
二つなき恋をしすれば常の帯を
三重結ぶべく我が身はなりぬ
長い間 思い続けて来た小野に程近いその里の男が
しるしを結ぶと聞いた日から立ってもいても
だうしたらよいか分からず坐っていても見通しが
つかず馴れ親しんだ我が家すら草を枕の旅に寝る
やうで物を思ふ身は苦しいのに嘆く身は日々を過ご
し難いのに一層天雲の如くゆらゆらと芦垣の如く
乱れて物を思ひ乱れた麻糸を入れる器もないとて
この恋の千分の一も人に知られず覚束なく恋する
のであらうか 恋を命として
比べやうがない恋をすると いつもの帯を三重に
結ぶほどに我が身は痩せてしまった (中西進訳)
君が行き(2)
2006/09/26 (Tue) 08:07
磐姫皇后(いはのひめのおほきさき)の
天皇を思ひて作りませる御歌四首
02-0085
君が行き日長くなりぬ山たづね
迎へか行かむ待ちにか待たむ
02-0086
かくばかり恋ひつつあらずは高山の
磐根し枕きて死なましものを
02-0087
ありつつも君をば待たむ打ちなびく
我が黒髪に霜の置くまでに
02-0088
秋の田の穂の上に霧らふ朝霞
いづへの方に我が恋やまむ
磐姫皇后思天皇御作歌四首
君之行氣長成奴山多都祢 迎加将行待尓可将待
如此許戀乍不有者高山之 磐根四巻手死奈麻死物呼
在管裳君乎者将待打靡 吾黒髪尓霜乃置萬代日
秋田之穂上尓霧相朝霞 何時邊乃方二我戀将息
私はこの少し後にある以下の歌の方が 激しくて好きです
2-0090
君が行き日長くなりぬ山たづの
迎へを行かむ待つには待たじ
妻恋ふ鹿
2006/09/23 (Sat) 08:53
01-0084 秋去者今毛見如妻戀尓 鹿将鳴山曽高野原之宇倍
長皇子 志貴皇子と佐紀宮に倶に宴せる歌
秋さらば今も見るごと妻恋に
鹿鳴かむ山そ高野原の上
右の一首は長皇子
秋になると 丁度ご覧のやうに 妻恋の鹿の鳴き声が
響く山なんですよ この高野原の上は
長皇子は天武天皇の子供 志貴皇子は天智天皇の子供です
「佐紀宮に倶に宴せる」とあることから実景ではない
屏風に描いてある風景を見ながら室内で詠んだものだと
思ひます
杯を酌み交はしながら この人たちは すいすいと
このやうな歌を詠むことが出来たのですね
万葉集八十四首目のこの歌は巻第一の巻末にあたります
でもそんな立場の人がゴロゴロいた訳ではありません
庶民はこの人たちの所有物だったのですから
その中間にいたのは豪族でした
豪族は中間といふより もっと皇族に近かったでせうか
基本的人権 そんな言葉も存在しない時代だったのです
黒き色を嗤ふ
2006/06/03 (Sat) 07:39
土師宿禰水通の巨勢朝臣豊人等の
黒き色を嗤咲へる歌一首
16-3844 烏玉之斐太乃大黒毎見 巨勢乃小黒之所念可聞
ぬば玉の斐太の大黒見るごとに
巨勢の小黒し思ほゆるかも
真っ黒けの斐太の大黒見ると そのたびに
巨勢の小物の黒までが思ひ出されてくるよ
巨勢朝臣豊人のこれを聞きて酬へ嗤へる歌一首
16-3845 造駒土師乃志婢麻呂白久有者 諾欲将有其黒色乎
駒造る土師の志婢麻呂白くあれば
うべ欲しからむその黒色を
土の馬などを作っている土師の志婢麻呂
そいつは生白いもんだから ほんに欲しいことだらう
その黒い黒い色が
腋草を刈れ
2006/06/02 (Fri) 00:31
或は云はく
平群朝臣の嗤へる歌一首
16-3842 小兒等草者勿苅八穂蓼乎
穂積乃阿曽我腋草乎可礼
小児ども草はな刈りそ八穂蓼を
穂積の朝臣が腋草を刈れ
子供達よ草など刈らなくてよい
刈るなら八穂蓼を積むといふ穂積のおやじの
あの臭い腋草を刈れ
穂積朝臣の和へたる歌一首
16-3843 何所曽真朱穿岳薦疊 平群乃阿曽我鼻上乎穿礼
いづくにそ真朱掘る丘薦畳
平群の朝臣が鼻の上を掘れ
どこにあるんだ 真朱を掘る丘は
ほら そこの平群のおやじの赤鼻の上を掘るがいい
八穂蓼 = 穂積の枕詞・摘んだ後から次々と穂を出す蓼
腋草 = 腋臭(わきが)の臭さを「草」に掛け
腋毛を「草」に見立てている
薦畳 = こもだたみ・平群の枕詞
朝臣 = あそ・ここでは官人を親しんで呼ぶ称
女餓鬼申さく
2006/06/01 (Thu) 09:56
池田朝臣の大神朝臣奥守を嗤へる歌一首
池田朝臣の名は亡失せり
16-3840 寺々之女餓鬼申久大神乃 男餓鬼被給而其子将播
寺々の女餓鬼申さく大神の
男餓鬼賜りてその子産まはむ
あちこちの寺の女餓鬼が言ってるよ
あの大神(おほみわ)の男餓鬼を私に賜り そいつの子供を
どんどん産みたい とな
やせっぽちの奥守を男餓鬼に譬えて池田朝臣が之を
嗤(わら)った歌です
勿論 奥守も黙ってはいません
大神朝臣奥守の報へ嗤へる歌一首
16-3841 寺々之女餓鬼申久大神乃 男餓鬼被給而其子将播
仏造る真朱足らずば水溜まる
池田の朝臣が鼻の上を掘れ
仏様を造るのに必要な真朱(まそほ)が足りなければ
水の溜まる池 その池田のおやじの赤鼻の上を掘ればいい
真朱 = 「真」(ま)は美称
水溜まる = 池田の枕詞
雨も降らぬか
2006/05/31 (Wed) 08:23
16-3837 久堅之雨毛落奴可蓮荷尓 渟在水乃玉似有将見
ひさかたの雨も降らぬか蓮葉に
渟れる水の玉に似たる見む
右の歌一首は伝へて云はく 「右の兵衛なるものあり
(姓名いまだ詳らかならず) 多く歌を作る芸を能くす
時に府家に酒食を備へ設け府の官人等を饗宴す
ここに饌食は盛るに皆荷葉を用ちてす 諸人酒酣に
歌舞駱駅せり 乃ち兵衛なるものを誘ひて云はく
『其の荷葉に関けて歌を作れ』といへれば登時声に
応へてこの歌を作りき」といへり
あの空から雨でも降ってこないものかなぁ
蓮の葉っぱに溜った水が玉のやうにきらきら光るのが
見たいものだ
ひさかたの = 雨の枕詞
雨も降らぬか = 雨が降って欲しい(願望)
酒酣に = 酒たけなはに
駱駅 = らくえき・引き続くさま
登時 = すなはち




























