鹿鳴く声
2006/01/31 (Tue) 09:00
大和国に男女ありけり 年月かぎりなく思ひて住みけるを
いかがしけむ 女を得てけり なほもあらず この家に
率て来て 壁を隔ててすえて わが方にはさらに寄り来ず
いと憂しと思へど さらに言ひもねたまず
秋の夜の長きに 目をさまして聞けば 鹿なむ鳴きける
ものも言はで聞きけり 壁を隔てたる男「聞きたまふや
西こそ」と言ひければ「何ごと」といらへければ
「この鹿の鳴くは聞きたうぶや」と言ひければ
「さ聞きはべり」といらへけり
男「さて それをばいかが聞きたまふ」と言ひければ
女 ふといらへけり
われもしか なきてぞ人に恋ひられし
今こそよそに声をのみ聞け
と よみたりければ かぎりなくめでて
この今の妻をば送りて もとのごとなむ住みわたりける
私も以前 その鹿が鳴くやうに泣いてあなたに
恋ひ慕はれたものでした
それが今では他所であなたの声だけを聞いています


























