100番 順徳院

ももしきや古き軒端のしのぶにも
  なほあまりある昔なりけり


宮中の荒れ果てた古い建物の軒に忍ぶ草が生えている
皇威の衰へはこの上なく如何に偲んでも
偲びつくせない程 隆盛であった昔が慕はしく
思はれるのです


ももしき = 百敷・百の石城(いしき)が元の意味
  大宮に掛かる枕詞 之を独立させて「大宮」
  「宮中」の意味に用いるやうになった
  ここでは後者の意


99番 後鳥羽院の第三皇子
父 後鳥羽院に協力して承久の乱を起こしたが
失敗して佐渡に配流された

藤原定家がこの親子の歌を百人一首の最後に載せて
百人一首を締めくくったのは何故
謎がいっぱいの百人一首 これでオシマイ

一枚札の「む」「す」「め」「ふ」「さ」「ほ」「せ」
憶えましたか?  これだけでも憶えますと
百人一首が楽しくなること請合いですよ

99番 後鳥羽院

人もをし人も恨めしあぢきなく
  世を思ふゆゑに物思ふ身は


世の中が昔と変って事毎に思ふにまかせないので
世の中を味気なく思ふにつけて
いろいろと物思ひに絶えない身には
とかく人を惜しくも思ひ
また恨めしくも思ったりする


をし = 「愛し」いとおしい「惜し」惜しむ の両方の意
あぢきなく = 味気なく・にがにがしい・面白くないの意
世を思ふ = この世をつまらなく思ふ


承久の乱を起こすも之に失敗し隠岐島に配流された
藤原定家ともいろいろな葛藤があったやうですが
それも私達にとっては「紅旗征戎非吾事」
といったところでせうか

98番 従二位家隆

風そよぐならの小川の夕暮は
  みそぎぞ夏のしるしなりける


楢の木の葉に風が吹き渡りっている奈良の小川の夕暮時は
涼しくて秋の訪れを思はせるやうであるが
この川で行はれている禊の行事だけが
まだ夏であることの証拠なのだなぁ


なら = 奈良・楢の掛詞

藤原家隆
新勅撰集に寛喜元年女御入内の屏風として出ているので
この詞書によって屏風歌であることが分かります
また 本歌は次の二首とされています


八代女王
みそぎするならの小川の河風に
  祈りぞわたる下に絶えじと


源頼綱
夏山の楢の葉そよぐ夕ぐれは
  今年も秋の心地こそすれ

97番 権中納言定家

こぬ人をまつほの浦の夕なぎに
  焼くやもしほの身もこがれつつ


待っても来ないあなたを 今来るかくるかと待っている私は
松帆の浦の夕凪時に海士が焼いている藻塩のやうに
あなたを慕って身も恋焦がれています


「待つ」と「松」は掛詞  「藻塩」と「こがれ」は縁語

藤原定家 小倉百人一首の撰者  83番 藤原俊成の子
この歌は定家の歌ですから待てど来ぬ女性を男性の立場で
詠ったものだとばかり思っていました
ところがこれは万葉集からの本歌取りであり
女性(海少女)の立場での歌であることが分かりました
然し本歌そのものは男性の立場で詠っています


笠朝臣金村
6-0935 
名寸隅の船瀬ゆ見ゆる淡路島
  松帆の浦に朝凪に 玉藻刈りつつ夕凪に
  藻塩焼きつつ海少女 ありとは聞けど見に行かむ
  縁のなければ大夫の 情は無しに手弱女の
  思ひたわみて徘徊り われはそ恋ふる船梶を無み

96番 入道前太政大臣

花さそふ嵐の庭の雪ならで
  ふりゆくものはわが身なりけり


嵐が花を誘って吹き散らしている庭は
まるで雪が振るに見へるけれど
降るものはあの花の雪ではなく
年々 年振る私の身であるなぁ


花さそふ嵐 = 桜の花を誘って吹き散らす嵐
雪ならで = 雪ではなくて
ふりゆくもの = 「雪が降る」と「年振る」を掛けている


藤原公経
この歌を詠んで ふと9番 小野小町の歌を連想するのは
私だけでせうか


小野小町
花の色はうつりにけりないたづらに
  わが身世にふるながめせしまに

95番 前大僧正慈円

おほけなくうき世の民におほふかな
  わがたつ杣に墨染の袖


私はこの比叡山に住んで墨染の袖で
世の中の人を蔽って安全を祈祷しているが
法徳の拙いこの身でこの事に当たるのは
誠に身分不相応なことだ


おほけなく = 身分不相応に
おほふかな = 墨染の袖を以って蔽ふことを感動的に表現
わがたつ杣 = 比叡山延暦寺の根本中堂の一名
墨染の袖 = 僧侶が着る衣


76番 藤原忠通の子
この歌の本歌とされる歌は


新古今集 巻第二十 釈教歌
比叡山中堂建立の時歌 伝教大師
阿耨多羅三藐三菩提の仏たち
わが立つ杣に冥加あらせ給へ

94番 参議雅経

み吉野の山の秋風さ夜ふけて
  ふるさと寒く衣うつなり


吉野山の秋風が寂しげに吹いて夜も更けてきたが
折しも この古都の里人が打つ砧の音が
寒々と聞こへてくるよ


み吉野 = 「み」は美称の接頭語
さ夜 = 「さ」も美称の接頭語
ふるさと = ここでは古都・旧都の意 即ち吉野を指す
衣打つ = 砧(きぬた)打つ・布を槌で打って柔らかくする


藤原雅経
「寒く」は「ふるさと」「衣うつ」の両方に掛かる
衣打つ = 砧打つ を知らなかった頃の私は
衣を打っているのは秋風だとばかり思っていました

この歌は新古今集に「擣衣の心を」として出ています
本歌は坂上是則の


み吉野の山の白雪積もるらし
ふる里寒くなりまさるなり

93番 鎌倉右大臣

世の中は常にもがもな渚こぐ
  あまの小舟の綱手かなしも


渚をこいでゆく漁夫の小舟の引き綱を扱ふ様子は
何とも言へず趣深いものだ
このやうな景色がいつまでも見られるやうに
世の中は変らないでいて欲しいものだ


常にもがもな = いつまでも永久不変であって欲しい
あま = 海人・漁夫  かなし = 愛し・いとほしい


源実朝は源頼朝の次男 母は北条政子
「常にもがもな」現代人にはまるで早口言葉のやうですね
この歌の本歌とされているのが以下の二首です


万葉集 01-0022
河の上のゆつ岩群に草むさず
  常にもがもな常処女にて

古今集 巻第二十 東歌 (陸奥歌)
陸奥はいづくはあれど塩釜の
  浦漕ぐ舟の綱手かなしも

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