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月か経ぬる

万葉集 巻第四 湯原王のまた贈れる歌一首
4-0638 直一夜隔之可良尓荒玉乃 月歟經去跡心遮


ただ一夜隔てしからにあらたまの
  月か経ぬると心いぶせし


たった一夜逢へなかっただけなのに ひと月も経って
しまったかのやうに狂おしい気持になりました


あらたまの = 年 月 日 月日 夜 春 の枕詞
  (新玉の・荒玉の)
心いぶせし = 心が晴れやらぬ様


第五句「心遮」の訓読は 上記の外に「心惑ひぬ」
「思ほゆるかも」があります
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君が憂きふし

源氏物語 帚木

  (略) はずかしめたまふめる官位いとどしく何に
  つけてかは人めかむ 世をそむきぬべき身なめり」
  など言ひおどして「さらば今日こそは限りなめれ」
  と この指をかがめてまかでぬ


手を折りてあひ見しことを数ふれば
  これひとつやは君が憂きふし


  えうらみじ」など言ひはべれば さすがにうち泣きて


憂きふしを心ひとつに数へきて
  こや君が手をわかるべきをり


  など言ひしろひはべりしかど (略)

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渚の院の桜3

伊勢物語 (八十二段)

  夜ふくるまで酒飲み物語して あるじの親王酔ひて
  入り給ひなむとす 十一日の月も隠れなむとすれば
  かの馬の頭のよめる


あかなくにまだきも月のかくるるか
  山の端にげて入れずもあらなむ


  親王にかはり奉りて紀の有常


おしなべて峰もたひらになりななむ
  山の端なくは月も入らじを


飽きもしないのに もう月が隠れてしまふのか
山の端が姿を消して月を入れないで欲しい

皆一様に峰も平らになって欲しい 山の端がないならば
月も入らないであらうに


入り給ひなむとす = 寝所にお入りにならうとされた
十一日の月も = 親王ばかりでなく月も・・・の意
隠れなむとすれば = 山の端に隠れやうとするので
あかなくに = 飽き足らないのに
入れずもあらなむ = 月を入れないで欲しい
  親王を寝させないで欲しい

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渚の院の桜2

伊勢物語 (八十二段)

  御供なる人 酒をもたせて野より出で来たり この酒を
  飲みてむとて よき所を求めゆくに天の河といふ所に
  いたりぬ 親王に馬の頭 大御酒まいる
  親王ののたまひける「交野を狩りて天の河のほとりに
  至るを題にて歌よみて杯はさせ」とのたまうければ
  かの馬の頭よみて奉りける


狩り暮らし たなばたつめに宿からむ
  天の河原に我は来にけり


  親王 歌をかへすがへす誦じたまうて返しえし給はず
  紀の有常 御ともに仕うまつれり それが返し


一年にひとたび来ます君まてば
  宿かす人もあらじとぞ思ふ


  帰りて宮に入らせ給ひぬ (続)


一日中狩をして夜になったら棚機つ女に宿を借りやう
折角天の河原へやって来たのだから

一年に一度やって来られる彦星を待っているので
宿を貸してくれる人もいないと思ひますよ

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渚の院の桜

伊勢物語 (八十二段)

惟喬親王はその離宮 水無瀬宮を毎年花見に連れて行く
右馬頭とともに訪れた 鷹狩はそっちのけで交野の渚の
院の見事な桜を髪飾りとして身分の上下なく皆で桜の
素晴らしさを歌に詠みこみあった その桜の木の下を
立ち去って離宮に戻る頃には日は暮れてしまった

  むかし惟喬の親王と申す親王おはしましけり 山崎の
  あなたに水無瀬といふ所に宮ありけり 年ごとの桜の
  花ざかりには その宮へなむおはしましける その時
  右の馬の頭なりける人を常に率ておはしましけり
  時世へて久しくなりにければ その人の名忘れにけり
  狩はねむごろにもせで酒をのみ飲みつつ やまと歌に
  かかれりけり いま狩する交野の渚の家 その院の桜
  ことにおもしろし その木のもとにおりゐて枝を
  折りてかざしにさして上中下みな歌よみけり
  馬の頭なりける人のよめる


世中に絶えて桜のなかりせば
  春の心はのどけからまし


  となむよみたりける また人の歌


散ればこそいとど桜はめでたけれ
  うき世になにか久しかるべき


  とて その木のもとは立ちてかへるに
  日ぐれになりぬ (続)

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河原院

伊勢物語 (八十一段)
ある左大臣が賀茂河近くの六条近辺に趣向をこらした邸宅
を造った 菊と紅葉の美しい頃 親王たちを招待し酒宴を
設け音楽を催した そこで歌を詠んだ時 賤しい老人が
塩釜に似せた庭池をめでて歌を詠んだ かつてこの老人は
陸奥に行って塩釜の実景に心ひかれたことがあったので
ことさら塩釜を模したこの庭に感動を新たにしたのでした

  むかし左の大臣いまそがりけり 賀茂河のほとりに
  六条わたりに家をいとおもしろく造りて住み給ひけり
  神無月のつごもりがた菊の花うつろひさかりなるに
  紅葉の千種に見ゆるおり親王たちおはしまさせて
  夜ひと夜酒飲みし遊びて夜あけもてゆくほどに
  この殿のおもしろきをほむる歌よむ
  そこにありけるかたゐ翁 板敷の下にはひありきて
  人にみなよませはててよめる

塩竈にいつか来にけむ朝なぎに
  釣する舟はここに寄らなむ


  となむよみけるは陸奥の国にいきたりけるに
  あやしくおもしろき所々多かりけり わがみかど六十
  余国の中に塩竈といふ所に似たるところ無かりけり
  さればなむ かの翁さらにここをめでて
  「塩竈にいつか来にけむ」とよめりける


あの陸奥の塩竈に一体いつ来てしまったんだらう
静かな朝なぎの中に釣する舟はここに寄って来て欲しい

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山科の禅師の親王2

伊勢物語 (七十八段)

 いくばくもなくて持て来ぬ この石ききしよりは見るは
 まされり これをただに奉らば すずろなるべしとて
 人人に歌よませ給ふ 右の馬の頭なりける人のをなむ
 あをき苔をきざみて蒔絵のかたに この歌をつけて
 奉りける


あかねども岩にぞかふる色見えぬ
  心を見せむよしのなければ


 となむよめりける


不満足ですが この石で私の心に代えます
親王をお慕ひする心を表面にあらはさうにも
あらはす方法がないので


ただに奉らば = 何もしないで(歌などをつけることも
  しないで)このまま差し上げたら
すずろなるべし = つまらないであらう
  「すずろなる」は興ざめ・風情がないの意
あをき苔をきざみて = 石の青苔を削り取って
  (歌の文字を石に示す)
蒔絵のかたに = 蒔絵模様に
あかねども = 「あく」は満足する
岩にぞかふる = 岩を自分の心の代りとして捧げる
色見えぬ = 色に表れない・表面に出ない自分の心中のこと
見せむよし = お見せする方法

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山科の禅師の親王

伊勢物語 (七十八段)
右大将藤原常行が安祥寺で妹 多賀幾子女御の四十九日の
法要をすませての帰途 山科の禅師の親王のもとに
立ち寄って その記念に見事な千里の浜の石に 右馬頭の
歌をきざみ込んで献上した

 むかし多賀幾子と申す女御おはしましけり うせ給ひて
 七七日のみわざ安祥寺にてしけり 右大将藤原の常行と
 いふ人いまそがりけり そのみわざにまうで給ひて
 かへさに山科の禅師の親王おはします
 その山科の宮に滝おとし水走らせなどして おもしろく
 造られたるにまうで給うて
 「年ごろよそには つかうまつれど近くはいまだ つかう
 まつらず 今宵はここにさぶらはむ」と申し給ふ
 親王よろこび給うて夜の御座のまうけせさせ給ふ
 さるにかの大将出でてたばかり給ふやう
 「宮仕へのはじめに ただなほやはあるべき 三条の
 大御幸せし時 紀の国の千里の浜にありける
 いとおもしろき石奉れりき 大御幸の後 奉れりしかば
 ある人の御曹司の前の溝にすゑたりしを
 島好み給ふ君なり この石を奉らむ」とのたまひて
 御随身舎人して取りにつかはす (続)

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安祥寺のみわざ

伊勢物語 (七十七段)
文徳天皇の女御 多賀幾子の法事が安祥寺で行はれた折
女御の兄 右大将常行が歌人を集めて歌を詠ませられた
その時 右馬頭の翁が詠んだ歌が人々を感心させた

 むかし田邑の帝と申すみかど おはしましけり
 その時の女御 多賀幾子と申す みまそがりけり
 それ失せたまひて安祥寺にてみわざしけり 人人
 捧げもの奉りけり 奉りあつめたる物 千捧ばかりあり
 そこばくの捧げものを木の枝につけて堂の前にたて
 たれば 山もさらに堂の前にうごき出でたるやうになむ
 見えける  それを右大将にいまそがりける藤原の
 常行と申すいまそがりて 講の終はるほどに歌よむ人人
 を召しあつめて今日のみわざを題にて春の心ばえある歌
 奉らせたまふ
 右の馬の頭なりける翁 目は たがひながらよみける


山のみな うつりて今日にあふ事は
  春の別れをとふとなるべし


 とよみけるを いま見れば よくもあらざりけり
 そのかみは これや まさりけむ あはれがりけり


山といふ山が皆この堂の前に移って来て今日の法事に
出会ふことは 美しい方の春の死別を弔ふためでせう

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結びつる心

源氏物語 桐壺

  (略) 白き大袿に御衣一領 例のことなり
  御さかづきのついでに


いときなきはつもとゆひに長き世を
  契る心は結びこめつや


  御心ばへありておどろかさせ給ふ


結びつる心も深きもとゆひに
  濃きむらさきの色しあせずは


  と奏して長橋よりおりて舞踏し給ふ (略)


幼い源氏がはじめて結ぶ元結に あなたの姫との
末長い仲を念じたのであらうね (桐壺帝)


深い心を込めて元結を結びました
濃い紫の色が色褪せないやうに源氏の君の心が
そして二人の心がいつまでも変らないやうにと (左大臣)


左大臣の娘 = 葵の上

妻問ひ

万葉集 巻第四 娘子のまた報へ贈れる歌一首

4-0637 吾背子之形見之衣嬬問尓 余身者不離事不問友


わが背子が形見の衣 妻問ひに
  わが身は離けじ言問はずとも


あなたの身代りの衣は 妻問ひに来られたあなただと
思って 肌身離さず持っています
たとへ物言はぬ衣ではあっても


妻問ひ = 求婚すること・男が女のもとに訪れること
言問はずとも = 物は言はなくとも・話ししてくれなくとも


えらく素直である わざと素直ぶっているのでせうね
さうすれば男としては却って気になりますもの

匣の内の珠

万葉集 巻第四 湯原王のまた贈れる歌二首
4-0635 草枕客者嬬者雖率有 匣内之珠社所念


草枕旅には妻は率たれども
  匣の内の珠とこそ思へ


旅に妻を連れてはいるけれど 私は大切な箱の中に
しまった珠のことを思っているのです


4-0636 余衣形見尓奉布細之 枕不離巻而左宿座

我が衣 形見に奉る敷栲の
  枕を離けず巻きてさ寝ませ


偲び衣を私の身代りに差し上げませう
枕を遠ざけたりせずに この衣を私だと思って
身にまとってお休み下さいね


率たれども = いたれども・連れてはいるが
匣 = くしげ・櫛箱  「旅に率」と「匣の内」とは反対
形見 = 離れている人を偲ぶよすがとなる品
さ寝ませ = 「さ」は接頭語


「匣の内の珠」は相手を 櫛箱(大切なものを納める)に
秘めた珠に譬へている

旅にも妻と

万葉集 巻第四 娘子が報へ贈れる歌二首

4-0633 幾許思異目鴨敷細之 枕片去夢所見來之


ここだくも思ひけめかも敷栲の
  枕片去る夢に見え来し


ひどく恋ひ焦がれていたからでせうか
あなたの為に枕を片寄せたその夜の夢に
あなたが見えましたわ


4-0634 家二四手雖見不飽乎草枕 客毛妻与有之乏左

家にして見れど飽かぬを草枕
  旅にも妻とあるが羨しさ


我が家でお逢ひしても私はいつも飽き足りずに
お別れしますのに お宅では勿論 草を枕の旅にまで
奥様とご一緒とは 羨ましいことでござひますわ


ここだくも = 甚しく・ひどく・しきりに
敷栲の = 衣・袂・袖・床・枕・家の枕詞
枕片去る = 相手の為に枕を片側に寄せておく


「夢に見え来し」相手の男も自分を想っていると
述べていることになる  多少とも自信の現れ
「妻とあるが羨しさ」いいわねぇ と皮肉っている
二首ともに軽い冗談めいた皮肉が感じられますね

うはへなき

万葉集 巻第四
湯原王の娘子に贈れる歌二首 志貴皇子の子なり
4-0631 宇波弊無物可聞人者然許 遠家路乎令還念者


うはへなき ものかも人は しかばかり
  遠き家路を還す思へば


無愛想なんですねぇあなたといふ人は 泊めてもくれず
遠い家路をこんなふうに帰らせるのかと思ふと


4-0632 目二破見而手二破不所取月内之 楓如妹乎奈何責

目には見て手には取らえぬ月の内の
  楓のごとき妹をいかにせむ


目には見へても手には取れない月の楓(かつら)のやうに
手をとり引き寄せることの出来ないあなた
あぁ私はだうすればいいのでせうか


うはへなき = 表辺なき・表面がない・無愛想な
月の内の楓 = 中国の伝説・月中に桂があるといふ


湯原王と娘子の恋歌のやりとりが連続して十二首あります
娘子とは誰なんでせうか

葦辺より

万葉集 巻第四 山口女王の大伴宿禰家持に贈れる歌五首

4-0616 劔大刀名惜雲吾者無 君尓不相而年之經去礼者


剣太刀 名の惜しけくも我はなし
  君に逢はずて年の経ぬれば


たとへ浮名が立たうと私はもう名前など惜しくはありません
あなたにお逢ひしないまま こんなに年月が
経ってしまったのですから


4-0617 従蘆邊満來塩乃弥益荷 念歟君之忘金鶴

葦辺より満ち来る潮のいやましに
  思へか君が忘れかねつる


葦のほとりを次第に満たし来る潮のやうに募る思ひで
あなたを忘れることが出来ません

続きを読む▽

袖漬づまでに

万葉集 巻第四 山口女王の大伴宿禰家持に贈れる歌五首

4-0614 不相念人乎也本名白細之 袖漬左右二哭耳四泣裳


相思はぬ人をやもとな白栲の
  袖ひづまでに ねのみし泣くも


互いに愛し合ふことも出来ない相手なのに
空しく慕っては袖が濡れるまで泣きつくすのかなぁ


4-0615 吾背子者不相念跡裳敷細乃 君之枕者夢所見乞

我が背子は相思はずとも敷栲の
  君が枕は夢に見えこそ


あなたご自身は私を愛しんで下さらず 逢っても下さらず
とも せめて共寝の枕だけでも夢に見えて欲しいものです


もとな = 本無し・理由なく・むやみに
ひづ = 水に漬かる  ねのみし = 「泣く」の強調
敷栲の = 「枕」の枕詞


山口女王とはどんな女性だったのでせうね
新古今集には こんな歌も


塩釜の前に浮きたる浮島の
  浮きて思ひのある世なりけり

なまじひに

万葉集 巻第八 山口女王の大伴宿禰家持に贈れる歌一首

8-1617 秋芽子尓置有露乃風吹而 落涙者留不勝都毛


秋萩に置きたる露の風吹きて
  落つる涙は留めかねつも


秋萩に置いた露が 風が吹いて落ちるやうに
私の涙も目に溢れてはこぼれ落ち留めることが出来ません


巻第四 山口女王の大伴宿禰家持に贈れる歌五首

4-0613 物念跡人尓不所見常奈麻強尓 常念弊利在曽金津流


物思ふと人に見えじとなまじひに
常に思へり ありそかねつる


物思ひをしていると人に気取られまいと
なまじっか心を抑えて平気を装っているせいか
常に物思ひをしてしまひ恋しくて死にさうです


日本語を外国語に翻訳する時に難しい言葉が「なまじ」
だと レトリックに関する本で読んだことがあります

  ♪♪♪ なまじ泣かれりゃ未練が絡む ♪♪♪

浅茅生の宿

源氏物語 桐壺
  (略) いとおし立ちかどかどしきところ ものしたまふ
  御方にて ことにもあらず おぼし消ちて
  もてなしたまふなるべし 月も入りぬ


雲のうへも涙にくるる秋の月
  いかですむらむ浅茅生の宿


  おぼしめしやりつつ燈火をかかげ尽くして
  起きおはします (略)

宮中でさへ涙に曇って暗く見える月が
だうして草深い宿で澄んで見えやうか (桐壺帝)


いかですむらむ = 「住む」と「澄む」とを掛けている

長恨歌に玄宗皇帝が亡き楊貴妃を偲ぶあまり
「秋の燈火かかげ尽くして未だ眠ること能はず」
・・秋の燈火の秋の燈芯を最後まで引き出して
使い果たしたが まだ眠れないでいる・・とあることによる

小塩の山

伊勢物語 (七十六段)
二条の后が祖神大原野神社に参詣した折 近衛府に出仕
していた老人が供奉の禄を頂いたので祖神のご心境に
ことよせて后との往時をしのぶ歌を奉った

  昔 二条の后の まだ春宮の御息所と申しける時
  氏神にまうで給ひけるに近衛府にさぶらひける翁
  人人の禄たまはるついでに御車よりたまはりて
  よみて奉りける


大原や小塩の山も今日こそは
  神世のことも思ひ出づらめ


  とて心にもかなしとや思ひけむ
  いかが思ひけむ知らずかし


大原の小塩の山にまします祖神も今日の栄えある春宮
御息所の行啓をご覧になって 神世の昔 天孫降臨の
供をされた日をしみじみ感無量に思ひ出されたことでせう

  お懐かしうございます あなたも昔の私とのことを
  想ひ出しておられることでございませう
  私とて昔のあなたとのこと とても懐かしく
  想ひ出しているところでございます

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うるはしき友

伊勢物語 (四十六段)
男の親しい友達が地方へ下って そこから 遠く離れていると
忘れられてしまふのではないかと思ふと寂しい
といふ便りがあった 男はいつも友のことを心に思って
いるので友の面影が常に目先にちらつき遠く離れているとは
思へない と熱い友情の歌を送った

  むかし男いとうるはしき友ありけり 片時さらずあひ思
  ひけるを人の国へ行きけるを いとあはれと思ひて
  別れにけり 月日経てをこせたる文に
  「あさましく対面せで月日の経にけること
   忘れやし給ひにけむと いたく思ひわびてなむ侍る
   世中の人の心は目かるれば忘れぬべき物にこそ
   あめれ」
  とていへりければ よみてやる


目かるとも思ほえなくに忘らるる
  時しなければ面影にたつ


離れてしまふと忘れてしまふのではないかと おっしゃるが
私には遠く離れた実感はありませんよ
それどころか あなたを忘れられる時が全くありませんので
あなたが幻影となって目先に現れます

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行く蛍

伊勢物語 (四十五段)
親に大事に育てられてきた内気な女が ある男を恋しく思ひ
心の中を打ち明けやうとしたが それも出来ないでいる内に
思ひがつのって病になり死ぬ折にそれを告白すると親は
それを聞きつけて男を呼ぶが女は死んでしまった
男はその家に留まり女を物憂く偲ぶ歌を詠む

  むかし男ありけり 人のむすめのかしづく いかでこの
  男にものいはむと思けり うち出でむことかたくや
  ありけむ もの病みになりて死ぬべき時に
  「かくこそ思ひしか」といひけるを親聞きつけて
  泣く泣く告げたりければ まどひ来たりけれど
  死にければ つれづれと こもり居りけり
  時は水無月のつごもり いと暑きころほひに宵は
  遊びをりて夜ふけて やや涼しき風吹きけり
  蛍高く飛びあがる この男見臥せりて


ゆく蛍 雲のうへまで去ぬべくは
  秋風ふくと雁につげこせ


暮れがたき夏の日ぐらしながむれば
  そのこととなく ものぞ悲しき


空飛ぶ蛍よ 雲の上まで飛んでゆくなら下界は はや秋風が
吹き雁のやってくる季節が来ましたと雁に告げておくれ

なかなか暮れない夏の一日中しみじみと物思ひに耽って
いると 何といふこともなしに物悲しくなる

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都鳥

伊勢物語 (九段) 東下り 都鳥
男の一行は武蔵と下総との国境の隅田河まで来てしまった
大河を越せば更に増す都との遠隔感に思ひ沈んでいると
無情な渡し守にせきたてられて舟に乗る
夕暮の川面に浮かぶ鳥の名を都鳥と聞いて男はさっそく
都の恋人への思慕の情を詠むと舟中一同感極まりて泣く

  猶行き行きて武蔵の国と下総の国との中に
  いと大きなる河あり それをすみだ河といふ
  その河のほとりにむれゐて思ひやれば限りなく
  とほくも来にけるかなとわびあへるに渡守
  「はや舟に乗れ日も暮れぬ」といふに乗りて
  渡らんとするに 皆人物わびしくて京に思ふ人
  なきにしもあらず さるをりしも白き鳥の嘴と脚と
  赤き 鴫の大きさなる 水のうへに遊びつつ魚をくふ
  京には見えぬ鳥なれば皆人見知らず
  渡守に問ひければ「これなむ宮こどり」といふをききて


名にし負はばいざ事問はむ宮こ鳥
  わが思ふ人はありやなしやと


  とよめりければ舟こぞりて泣きにけり


お前が都といふ名前を持っているなら物を尋ねやう
都にいる私のいとしい人は元気でいるかだうかと

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時知らぬ

伊勢物語 (九段) 東下り 駿河の国
東路も駿河の国に至り宇津の山越へにかかった
もの寂しい山道で顔見知りの修行者に会ひ都の恋人の
もとに歌を託した  五月の末なのに富士山の頂に
雪があるのを見て興味深く思ひ歌を詠んだ

  行き行きて駿河の国にいたりぬ 宇津の山にいたりて
  わが入らむとする道は いと暗う細きに つたかえでは
  茂り物心ぼそく すずろなる めを見ることと思ふに
  修行者あひたり 「かかる道は いかでか いまする」
  といふを見れば見し人なりけり 京にその人の御もと
  にとて文書きてつく


駿河なる宇津の山べのうつつにも
  夢にも人にあはぬなりけり


  富士の山を見れば五月のつごもりに雪いと白う降れり


時知らぬ山は富士の嶺いつとてか
鹿の子まだらに雪の降るらむ


  その山は ここにたとへば比叡の山を
  二十ばかり重ねあげたらむほどして
  なりは塩尻のやうになむありける

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尋ねゆく

源氏物語 桐壺
  (略) いともかしこきは 置き所もはべらず
  かかる仰せ言につけても かきくらす乱りごこちになむ


荒き風ふせぎしかげの枯れしより
  小萩がうへぞ静心なき


  などやうに乱りがはしきを心をさめざりけるほどと
  御覧じ許すべし (略)

  (略) 亡き人の住処尋ねいでたりけむ
  しるしの釵ならましかば と思ほすもいとかひなし


尋ねゆく幻もがなつてにても
  魂のありかをそこと知るべく


  絵にかける楊貴妃のかたちは いみじき絵師といへども
  筆限りありければ いとにほひ少なし (略)


荒々しい風から小萩守ってくれていた木が枯れてしまひ
木陰の小萩のことが気がかりです
  更衣なきあとの幼子が心配です (更衣の母君)


更衣の魂を捜しに行ってくれる導師はいないものか
人づてにでも魂がどにあるのか知っていたいから (桐壺帝)

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歌の復籍 上巻・下巻
著者 梅原猛
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著者 梅原猛
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文法全解 伊勢物語
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上田秋成集
著者 稲村徳
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『万葉集』の世界


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万葉を考える


大和物語・伊勢物語 他
日本古典文学全集
著者 片桐洋一・福井貞助
・高橋正治・清水好子
小学館
(下の写真は背表紙)
日本古典文学全集

プロフィール

ちゃむ

  • Author:ちゃむ
  • 1940.01 生まれ 男性
    この写真は但馬皇女の歌
    人言を繁み言痛み己が世に
      未だ渡らぬ朝川渡る

    をイメージしたものです

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