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身の憂さを嘆く

源氏物語 帚木

  鶏もしばしば鳴くに心あわたたしくて


つれなきを恨みもはてぬしののめに
  とりあへぬまでおどろかすらむ


  女 身のありさまを思ふに いとつきなくまばゆき
  心地して めでたき御もてなしも何ともおぼえず
  常はいとすくすくしく心づきなしと思ひあなづる
  伊予のかたの思ひやられて夢にや見ゆらむ
  とそら恐ろしくつつまし


身の憂さを嘆くにあかで明くる夜は
  とり重ねてぞ音もなかれける


  ことと明くなれば障子口まで送りたまふ
  うちも外も人騒がしければ引きたてて
  別れたまふほど心細く隔つる関と見えたり


あなたの冷たい態度に恨み言も十分言へないうちに
はや夜もしらみ だうして鶏までもせわしく
私を起こすのでせう


わが身の情けなさを嘆くにも嘆き足りないうちに明ける
この夜は鶏の声に重ねて私も声を立てて泣けてくるのです

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角のふくれ

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

16-3821 美麗物何所不飽矣坂門等之
  角乃布久礼尓四具比相尓計六


うましもの何所飽かじを尺度らが
  角のふくれにしぐひ合ひにけむ


  右は時に娘子あり姓は尺度氏なり この娘子 高き姓の
  美人の誂ふるを聴さずて下き姓の醜士の誂ふるを
  応許しき ここに兒部女王のこの歌を裁作りて彼の愚
  なるを嗤咲へり


美しい女はどんな男とだって結婚できるのに
尺度の娘はだうして角のふくれたやうな醜男と
一緒になったのでせうねぇ


美麗物 = うましもの・くはしもの 美しい女性
何所不飽 = 何所飽かじを・いづくか飽かじ
矣坂門等之 = 尺度らが・さかとらし
角のふくれ = 醜男の形容


或るとき一人の女がいた 生まれは尺度氏であった
この女は素性の良い美男子の求婚に耳を貸さず
素性の賤しい醜男の申し出を受けた そこで兒部女王は
この歌を作ってその愚行を嘲け笑った

しらたまの緒

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

  贈れる歌一首

16-3814 真珠者緒絶為尓伎登聞之故尓
      其緒復貫吾玉尓将為

  答へたる歌一首

16-3815 白玉之緒絶者信雖然 其緒又貫人持去家有


しらたまは緒絶しにきと聞きし故に
  その緒また貫き わが玉にせむ


白玉の緒絶はまことしかれども
  その緒また貫き人持ち去にけり


真珠の緒が切れたと聞きましたが
その玉をまた緒に通して私の玉にしたひと思ひます


白玉の緒が切れたことは本当ですが その緒をまた通して
他の男が持っていってしまひました


真珠(しらたま)を女に譬えることは例が多い

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さ丹つらふ

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

昔ひとりの女がいた 夫は長年にわたり通って来なかった
女は夫への恋に心を悲しませ病の身となり日に日に痩せ
衰へつづけ遂に死に臨むこととなった そこで使ひをやり
夫を呼び寄せた 女は涙を流して泣きながらこの歌を口ず
さんで そのまま亡くなった  といふことである

16-3813 吾命者惜雲不有散追良布 君尓依而曽長欲為

  右は伝へて云はく「時に娘子ありき 姓ハ車持氏なり
  その夫久しく年を逕て徃来なさず 時に娘子係恋に
  心を傷ましめ痾疾に沈み臥り 痩羸日に異にして
  忽ち泉路に臨みき ここに使を遣りその夫の君を喚び
  来れり すなはち歔欷き涙を流してこの歌を口号み
  すなはち逝没りき」といへり


わが命は惜しくもあらずさ丹つらふ
  君によりてそ長く欲りせし


私のこの命など惜しくもありません
ただお元気なあなたに逢へる日のためだけに
長らへたひと願っています


さ丹つらふ = 「君」の枕詞・血色がいい・・の意

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味飯を水に醸み

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

むかし一人の女がいた その夫と別れ恋しく待ち望み
ながら年を過ごした 時に夫は更に別の妻をめとって
本人は来ないでただ贈り物だけをよこした
そこで女がこの恨みの歌を作って返事をした」といふ

  右は伝へて云はく 昔娘子ありき その夫に相別れ
  望み恋ひて年を経たり その時に夫の君 更に他妻を
  娶りて正身は来らずしてただつつみ物のみを贈れり
  これに因りて娘子この恨みの歌を作りて還し酬へき」
  といへり

16-3810 味飯乎水尓醸成吾待之 代者曽无直尓之不有者


味飯を水に醸みなしわが待ちし
  かひはさねなし直にしあらねば


美味しいお酒を造ってお待ちしていても その甲斐は全く
ありません あなたご本人が来られないのですもの


かひはさねなし = 別の訓読 → かひはかつてなし
直に = 本人自身と直接

わが下衣

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

或る時 帝のご寵愛を受けた女がいた 素性も名前も
分からない ご寵愛の薄れた後に 前に差し上げた形見の
品をお返しになった
そこで女は恨めしく思ひこの歌を作ってみて献上した

  右は伝へて云はく 時に幸びらえし娘子あり 姓名未詳
  寵薄れたる後に寄物(俗にかたみと云ふ)を還し賜ひき
  ここに娘子怨恨みて聊かにこの歌を作りて献上りき
  といへり

16-3809 商變領為跡之御法有者許曽 吾下衣反賜米


商返し領らすとの御法あらばこそ
わが下衣返し賜らめ


商契約の破棄を認める などといふ法令でもお出しなら
私が差し上げた形見の下衣のご返却も宜しうござひませう


商返し = 商契約を反古にすること
領らす = しらす・法令として施行する
下衣 = 肌着・愛の証として贈り交された


そんな法律もないのに形見の下衣をお返しなるなんて
あまりにも理不尽じゃございませぬか
そんな気持で詠んだのでせうねぇ

ささがに

源氏物語 帚木

  ・・げにそのにほひさへ はなやかにたち添へるも
  術なくて逃げ目をつかひて

ささがにのふるまひしるき夕ぐれに
  ひるま過ぐせといふがあやなき


  いかなることづけぞや」
  と言ひも果てず走り出ではべりぬるに追ひて


逢ふことの夜をし隔てぬ仲ならば
  ひる間もなにかまばゆからまし


  さすがに口疾くなどははべりき」と しづしづと申せば
  君達あさましと思ひて嘘言とて笑ひたまふ


蜘蛛の動きで分かっている筈のこの夕暮に
ニンニクの匂いがするから昼間は待て と言ふのは
理の通らない話ですねぇ 聞こえませんよ


夜毎に逢っている仲でしたらニンニクの匂いがする昼間
でも だうして恥ずかしいことでありませうか


ささがに = 蜘蛛・蜘蛛の枕詞
ひるま過ぐせと = 「昼」と「蒜(ひる)」を掛けている
  蒜はニンニクのこと

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白菊

伊勢物語 (十八段)

昔なまはんかで風流ぶる女がいた 男がその近くに住んで
いたが女には余り関心を示さなかった
女は歌を詠む人だったので 男がだうするかと思って
菊の花の衰へかかり紅色がかったものを折って男のもとへ
歌を添へて送った
男はこの歌の意味が分からないふりをして返歌を詠んだ

  むかし なま心ある女ありけり 男 近うありけり
  女 歌よむ人なりければ心見むとて菊の花のうつろ
  へるを折りて男のもとへやる


くれなゐに にほふはいづら白雪の
  枝もとををに降るかとも見ゆ


  男しらずよみによみける


くれなゐに にほふがうへの白菊は
おりける人の袖かとも見ゆ


美しい紅色はどこにあるのでせう この菊は枝も撓む
ばかりに白雪が降り積っているやうに真っ白に見えますよ
(あなたは色好みだと聞きますが一向にそれらしき節も
ありませんねぇ)


紅色を隠すかのやうな白菊は これを折ったあなたの
袖の重ねの色に見えますね

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年にまれなる人

伊勢物語 (十七段)

しばらくの年月 訪れてこなかった人が桜の花の盛りに
花を見にきたので その家の主人が詠んだ

  年ごろおとづれざりける人の
  桜のさかりに見に来たりければ あるじ


あだなりと名にこそ立てれ桜花
  年にまれなる人も待ちけり


  返し


今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし
消えずはありとも花と見ましや


この桜花は移り気で散り易いと評判ですが年のうちに
訪れも稀なお方を かうして待っておりました


私が今日来なかったなら その桜花は明日は雪のやうに
降り散ってしまふことでせう
たとへ消へないていても消へ残った雪も同然
もとの花と見えるでせうか


この段における「桜花」は だうみても「女」の意です
とすると「あるじ」も女なのでせうか
年にまれなる訪問者は業平でせう

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浅間の嶽

伊勢物語(八段)

昔 男がいた 京に住みづらかったのだらうか東国の方へ
行って住む場所を探さうといふので従者一 二人とともに
行った 途中 信濃の国の浅間の山に噴煙が立ち昇るのを
見て歌を詠んだ

  むかし男ありけり 京や住み憂かりけむ
  あづまの方に行きて住み所もとむとて ともとする人
  ひとりふたりして行きけり
  信濃の国 浅間の嶽にけぶりの立つを見て


信濃なるあさまのたけにたつけぶり
  をちこち人の見やはとがめぬ


信濃の国にある浅間山に立ち上る煙 遠近の人々はこれを
見て怪しまないだらうか さぞ奇異なものだといぶかる
ことだらう


をちこち人 = 遠近の人

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かへる浪

伊勢物語(七段)

むかし男がいた 京にいづらくて東国に行ったが伊勢の
国と尾張の国との間の海岸を行くときに浪が大層白く
たつのを見て歌を詠んだ

  むかし男ありけり 京にありわびて東にいきけるに
  伊勢 尾張のあはひの海づらを行くに浪のいと白く
  立つを見て


いとどしく過ぎゆくかたの恋しきに
  うらやましくもかへる浪かな


  となむよめりける


東への旅を重ねるとともに過ぎ去ってゆく都がいよいよ
恋しく思はれるのに羨ましいことに浪は寄せては沖に
帰って行くのだなぁ
私も帰りたい 二条の后の待つ都へ


過ぎゆくかた = 通り過ぎてきた方

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ひじき藻

伊勢物語(三段)

  むかし男ありけり 懸想じける女のもとに ひじき藻
  といふものをやるとて


思ひあらば葎の宿に寝もしなむ
  ひじきものには袖をしつつも


  二条の后のまだ帝にも仕うまつり給はで
  ただ人にておはしましける時のことなり


私を思ふ心があるなら葎(むぐら)の茂るあばら屋でも
共寝して欲しい 夜具には着物の袖を使ふなりして


ひじき藻 = 海草のヒジキ 海産物は貴重品
ひじきもの = 引敷物(夜具)
ただ人 = 普通の人
  皇室とはまだ無関係な身分であった時の人・・の意


業平と二条の后の恋 「二条の后」をキーワードにして
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常夏

源氏物語 帚木

咲きまじる色はいづれと分かねども
なほ常夏にしくものぞなき


  大和撫子をばさしおきて まづ塵をだに など親の心をとる


うち払ふ袖も露けき常夏に
  あらし吹きそふ秋も来にけり


いろいろ咲いている花の色はどれが美しいと区別も
つかないけれど やはり常夏に及ぶ花はない


露を払ふ私の袖も露がいっぱいの(涙に濡れている)常夏に
嵐まで吹きつける秋がやって来ました


常夏 = なでしこの異名
   「常」に「床」を掛け妻である女を指す
秋も来にけり = 「秋」に「飽き」を掛けている


古今集 巻第三 夏歌  「塵をだに」凡河内躬恒

  隣より常夏の花を乞ひにおこせたりければ
  惜しみてこの歌をよみてつかはしける  躬恒


塵をだにすゑじとぞ思ふ咲きしより
  妹とわが寝るとこなつの花

住吉のをづめ

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

16-3808 墨江之小集樂尓出而寤尓毛
     己妻尚乎鏡登見津藻


住吉の小集楽に出でてうつつにも
  おの妻すらを鏡と見つも


  右は伝へて云はく「むかし鄙人あり 姓名は未だ詳ら
  かならず 時に郷里の男女つど集ひて野遊しき
  この会集へる中に鄙人の夫婦あり
  其の婦の容姿端正しきこと衆諸に秀れたり
  すなはち彼の鄙人の意にいよいよ妻を愛しぶる情
  増りてこの歌を作り美貌を讃嘆しき」といへり


住吉の歌垣の集りに出かけて まざまざと我が妻ながら
まばゆく光る鏡のやうに美しいことが分かった


昔一人の田舎者がいた 素性や名前は分からない
或る時 里の男女が集まって野遊の歌垣をした その中に
この田舎物夫婦もいた その妻の顔形の美しさはひときわ
目だっていた それに気づいた夫は妻をいとおしむ気持が
更に強くなり そこでこの歌を作って妻の美貌を称賛した


其の婦の容姿端正しきこと衆諸に秀れたり
この男の得意満面な表情と気持が見えてきますね

安積香山

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

16-3807 安積香山影副所見山井之 淺心乎吾念莫國


安積香山影さへ見ゆる山の井の
  浅き心をわが思はなくに


  右の歌は伝へて云はく「葛城王の陸奥の国に遣さえし
  時に国司の祗承 緩怠なること異に甚だし
  時に王の意に悦びず怒りの色面に顕る 飯饌を設け
  ども肯へて宴楽せず ここに前の采女あり 風流び
  たる娘子なり 左手に觴を捧げ右の手に水を持ち
  王の膝を撃ちてこの歌を詠みき すなはち王の意解け
  悦びて楽飲すること終日なりき」といへり


安積香山の姿までも映し出す清らかな山の井
浅いその井のやうな浅はかな心で
私がお慕ひしているわけではありませんのに


葛城王が陸奥の国に派遣された時に国司の応対の仕方が
大変なおざりだったので王はひどく不快になり
怒りの表情がありありと見えた そして接待の酒宴を
準備したにも拘らず だうしても打ち解けて宴に興じやう
とはしなかった そこに前の采女であった女がいた
都風の教養を身に付けた女であった 左手に盃を捧げ
右手には水の入った器を持ち その水器で王の膝に拍子を
打ちながら この歌を詠んだ そこで王の気持はすっかり
ほぐれて終日楽しく飲んで過ごしたといふ

事しあらば

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

16-3806 事之有者小泊瀬山乃石城尓母 隠者共尓莫思吾背


事しあらば小泊瀬山の石城にも
  隠らば共にな思ひわが背


  右は伝へて云はく「時に女子ありき 父母に知れずて
  竊に壮士に接ひき 壮士その親の呵嘖はむこと
  おそりて稍に猶予ふ意あり これに因りて娘子の
  この歌を裁作りてその夫に贈り与へき」といへり


私達二人の仲に邪魔が入ろうものなら小泊瀬山の岩屋に
閉じ籠ることになっても お傍にいます
くよくよしないで下さいね あなた


或る時 一人の女がいた 父母に隠して内緒である男と
契りを結んだ 男は女の両親の怒りを恐れて次第に
弱気になった そこで女はこの歌を作って夫に送って
やったといふ


頼りない男は昔もいたのですねぇ

ここだ恋ふれば

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌

妻は床に臥せりながら夫の歌声を聞き枕から頭をあげて
すぐさま答へた
今この歌について考へてみると夫が駅使を拝命して年を
重ねそして帰って来たのが雪の降る冬であった
そのため女はこの沫雪の句を詠んだのであらうか

  娘子臥しつつ夫の君の歌を聞き
  枕より頭を挙げ声に応へて和ふる歌一首

16-3805 烏玉之黒髪所沾而沫雪之 零也來座幾許戀者


ぬば玉の黒髪濡れて沫雪の
  降るにや来ます幾許恋ふれば


  今案ふるにこの歌は其の夫の使を被り既に累載を経て
  還る時に当りて雪落る冬なりき
  これに因りて娘子のこの沫雪の句を作れるか


黒髪を濡らして沫雪の降る中をお帰り下さったのですか
私がこんなにもお慕ひ申し上げていたので

猪名川

万葉集 巻第十六 由縁ある雑歌
むかし一人の男がいた 結婚してまだそれほど日が経た
ない頃 駅使に任命され遠い国に派遣されてしまった
公務には定めがあって任地を離れる事が出来ず
今度いつ逢へるかさへ分からなかった
新妻は嘆き悲しんで遂に病の床に伏す身となった
何年か後に男が帰京し妻のもとに赴いて見ると
妻は痩せ衰へ やつれ果てその変りやうは言葉に
ならないほどであった その時 男は悲しみ涙を流して
歌を作り口ずさんだ

  昔壮士ありき 新たに婚礼を成せり いまだ幾時も
  経ずして忽ちに駅使となりて遠き境に遣はさゆ
  公事に限り有り 会ふ期は日無し ここに娘子
  感慟き悽愴みて疾病に沈み臥しぬ 年累ねて後に
  壮士還り来りて覆命すこと既に了りぬ すなはち
  詣りて相視るに娘子の姿容 疲羸は甚く異にして
  言語哽咽す 時に壮士 哀嘆み涙を流し
  歌を裁りて口号みき  其の歌一首

16-3804 如是耳尓有家流物乎猪名川之
      奥乎深目而吾念有來


かくのみにありけるものを猪名川の
  奥を深めてわが思へりける


こんなにもやつれ果てて 可愛そうに
私は猪名川の深い水底のやうに心の奥深く
若く美しいお前を想ひ続けていたんだよ

撫子の露

源氏物語 帚木

  (略)「さて、その文のことばは」と問ひたまへば
「いさや ことなることもなかりきや


山がつの垣ほ荒るともをりをりに
  あはれはかけよ撫子の露


山住みの賤しい私の家の垣根は荒れても
(私のもとには訪れて下さらなくても)
時々は撫子に露がやうに このいとしい子を
可愛がって下さいね


山がつ = 山賤・樵など山中に住む身分の賤しい者

古今集 巻第十四 恋歌四 にある関連歌  読人不知

あな恋しいまも見てしが山賤の
  垣ほに咲ける大和撫子

あやしき藤の花(2)

伊勢物語 (百一段)

  よみはてがたに主のはらからなる あるじし給ふと
  聞きて来たりければ とらへてよませける
  もとより歌のことは知らざりければ すまひけれど
  しひてよませければ かくなん


咲く花のしたに隠るる人を多み
  ありしにまさる藤のかげかも


  「などかくしもよむ」といひければ
  「おほきおとどの栄花の盛りにみまそがりて藤氏の
  ことに栄ゆるを思ひてよめる」となむいひける
  皆人そしらずなりにけり


咲く花の下に控え隠れている人が多いので 即ち
藤原良房ご一門には良近様のやうな人材が多く
控えておられるので以前にもまして藤原ご一門は
華やかに栄えていることでございます

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あやしき藤の花

伊勢物語 (百一段)

業平の兄 在原行平が藤原良近を上客として招いて酒宴を
張った その時 一座に加わった業平が花瓶の見事な藤の
花を詠み藤原一門の栄花を讃美した

  むかし左兵衛の督なりける在原の行平といふありけり
  その人の家によき酒ありと聞きて うへにありける
  左中弁藤原の良近といふをなむ 客人ざねにて
  その日は主まうけしたりける なさけある人にて瓶に
  花をさせり その花のなかにあやしき藤の花ありけり
  花のしなひ三尺六寸ばかりなむありける
  それを題にてよむ(続)


左兵衛の督 = 左兵衛府の長官
といふありけり = といふ人があった
よき酒ありと聞きて = 行平の家に美酒があると聞いて
うへにありける = 清涼殿の殿上の間に出仕していた
左中弁 = 正五位
良近といふを = 良近といふ人を
藤原良近 = 藤原不比等の末裔にて酒豪
客人ざねにて = まらうどざねにて・上客として
主まうけ = 主人役として人をもてなす
なさけある人にて = 情趣を解する人であって
あやしき藤の花 = 普通と異なった見事な藤の花
花のしなひ = 花房・花の垂れている部分

四十の賀

伊勢物語 (九十七段)

堀川の大臣の四十の賀に近衛中将の翁が 初老のやってくる
道を桜の落下でまぎらはして老ひが来ないやうにしてくれ
と 優雅な賀の歌を詠んだ

  むかし堀河のおほいまうちぎみと申すいまそがりけり
  四十の賀 九条の家にてせられける日 中将なりける翁


桜花ちりかひ曇れ老いらくの
  来むといふなる道まがふがに


桜の花よ 入り乱れ散って空を曇らせておくれ
老がやってくるといふ道が 分からなくなるやうに


堀河のおほいまうちぎみ = 堀河の大臣
いまそがりけり = おいでになった
四十の賀 = 四十歳を初老とし その寿を祝ふ
中将なりける翁 = 業平
来むといふなる = やって来るとかいふ


古今集 巻第七 賀歌 に次の詞書を伴って出ています

  堀河のおほいまうちぎみの四十の賀
  九条の家にてしける時によめる   在原業平朝臣


桜花散りかひ曇れ老いらくの
  来むといふなる路まがふがに


古今集 巻第十七 雑歌上にある関連歌 読人不知

老いらくの来むと知りせば門さして
  なしと答へて逢はざらましを

さらぬ別れ

伊勢物語 (八十四段)

京で宮仕へしている一人の子のもとへ長岡の母から急用が
あるとの便り その中にあつた歌は老い先不安のため
是非逢ひたひとのこと 公私多忙な身とは言へ無沙汰を
詫びる心で折り返し子の心を詠みこんだ歌を作った

  むかし男ありけり 身はいやしながら母なむ宮なり
  ける その母 長岡といふ所に住み給ひけり 子は
  京に宮仕へしければ まうづとしけれど しばしば
  えまうでず ひとつ子にさへありければ いとかなし
  うし給ひけり さるに十二月ばかりに とみのこと
  とて御ふみあり おどろきて見れば歌あり


老ぬればさらぬ別れのありといへば
  いよいよ見まくほしき君かな


  かの子いたううち泣きてよめる


世の中にさらぬ別れのなくもがな
  千代もといのる人の子のため

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小野の雪(2)

伊勢物語 (八十三段)

  かくしつつまうでつかうまつりけるを思ひのほかに
  御髪おろし給うてけり むつきにをがみたてまつらむ
  とて小野にまうでたるに比叡の山の麓なれば雪いと
  高し しひて御室にまうでてをがみたてまつるに
  つれづれといと物がなしくておはしましければ
  やや久しくさぶらひて いにしへのことなど思ひ出で
  聞えけり さても侍ひてしがなと思へど公事ども
  ありければ 侍はで夕暮に帰るとて


忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや
  雪ふみわけて君を見むとは


  とてなむ泣く泣く来にける


ふと現実を忘れて夢のやうな気がします この深い雪を
踏み分けておいたはしい身の上の親王を拝み奉るとは
今まで思ったことがあっただらうか
全く思ひもしなかったことです

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歌の復籍 上巻・下巻
著者 梅原猛
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著者 梅原猛
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著者 片桐洋一・福井貞助
・高橋正治・清水好子
小学館
(下の写真は背表紙)
日本古典文学全集

プロフィール

ちゃむ

  • Author:ちゃむ
  • 1940.01 生まれ 男性
    この写真は但馬皇女の歌
    人言を繁み言痛み己が世に
      未だ渡らぬ朝川渡る

    をイメージしたものです

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