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伊勢物語(八十三段)その二

伊勢物語(八十三段)その二
  かくしつつまうで仕うまつりけるを 思ひのほかに
  御髪おろし給うてけり 正月に拝みたてまつらむとて
  小野にまうでたるに 比叡の山のふもとなれば 雪いと
  たかし しひて御室にまうでて拝みたてまつるに つれ
  づれと いとものがなしくておはしましければ やや久
  しくさぶらひて いにしへのことなど思ひ出で聞えけり
  さてもさぶらひてしがなと思へど 公事どもありければ
  えさぶらはで 夕暮にかへるとて

忘れては夢かとぞおもふ思ひきや
  雪ふみわけて君を見むとは


  とてなむ泣く泣く来にける

このやうに親しみながら 親王のもとに参上して お仕へ申
し上げておりましたのに 親王は思ひがけなくも 出家され
てしまった 翁が年始のご挨拶に行かうとして 親王が隠棲
された小野に参上したところ 比叡山の麓だったので雪がと
ても深かった 無理を押して親王のお部屋へ拝顔を申し出
ると 親王は手持ち無沙汰で とても淋しさうなご様子で
いらっしゃるので 大分長いことお側にいて 昔のことなど
思ひ出し お話申し上げた このまま親王のお側にいたいと
思ったが 宮廷での儀式や行事があったので お側に留まる
ことも出来ず 夕暮れに帰るといふので


これが現実だといふことを忘れて 夢ではないかと わが目
を疑ひます このやうに高く積った雪を踏み分けて
わが君にお目にかかりに来るやうにならうとは
考へたことがありましたでせうか


と詠んで泣く泣く都に帰ってきた

まうで = 参上して
御髪おろし給うてけり = 出家されてしまった
拝みたてまつらむ = 新年の拝賀をしゃう
しひて = 強いて
つれづれと = ただ一人つくねんと寂しげに
聞えけり = 申し上げた 「聞こへ」は「言ふ」の謙譲語
さてもさぶらひてしがな = そのまま おそばにいたいものだ

古今集 巻第十八 雑歌下 970 には長い詞書がついている


  惟喬の親王の許にまかり通ひけるを 頭おろして
  小野といふ所に侍りけるに正月に訪はむとて
  まかりたりけるに比叡の山の麓なりければ雪いと
  深かりけり しひてかの室にまかりいたりて拝み
  けるに つれづれとしていともの悲しくて
  帰りまうで来てよみておくりける  業平朝臣

忘れては夢かとぞ思ふ思ひきや
  雪ふみわけて君を見むとは

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